さて、今回のテーマは動画広告です。Youtube等で動画コンテンツを見る際や、Facebookのフィード上、もしくはスマホゲームの最中など、動画広告を目にする機会が増えたという実感を持たれている方も多いのではないでしょうか。実際に動画広告市場は伸びており、動画広告はパブリッシャーの新たな収益手段として注目を浴びています。今回はそんな動画広告の基礎知識として、動画広告が普及に至った背景と、動画広告の種類・配信規格という3つのポイントに絞って解説していきたいと思います。
押さえておきたいポイント①動画広告普及までの背景
ここ数年、毎年のように「動画広告元年」と言われていますが、動画広告自体は2005年頃から、またインターネット動画はインターネットが一般化し始めた1995年頃から存在していました。しかし、当時はインターネット回線が定額制ではなく従量制で、アナログ回線のため速度が遅く、動画データを送受信するのにお金も時間もかかるといった状況からなかなか普及には至りませんでした。その後日本では、2000年頃からブロードバンドの広がりとともにインフラが整備され、回線料金も定額制が敷かれるようになったことから、インターネットでの動画視聴は一気に広まりました。動画配信技術の発達に伴い「GYAO!」など様々な動画サービスが生まれ、また「Youtube」や「ニコニコ動画」といったCGM型の動画サービスも開始されたことから、動画は視聴するだけでなく発信するものになりました。さらにスマートフォンの登場により“いつでも”“どこでも”動画視聴・動画配信することが可能になり、インターネット上の動画は一気にコンテンツ数・視聴数を増やしました。
日本で動画広告が初めて動画コンテンツに挿入されたのは、動画サービスが立ち上がって間もない2005年、そして少し遅れて2010年に「Youtube」で動画広告が挿入され、2012年にモバイル版「Youtube」でもスタートしました。また同じく2012年にフランスのTeads社により「inRead」という記事内に挿入される動画広告フォーマットが開発され、動画コンテンツ以外での動画広告マネタイズを可能にしました。その他動画専門のプラットフォーマーやネット動画に特化した制作業者、ネット動画視聴率の計測ベンダーなど多くのプレイヤーが参入し、動画配信技術を一気に発展させました。
動画広告が盛り上がっているもう一つの背景として、若者のテレビ離れがあります。日本人全体のテレビ視聴平均利用時間は2010年頃から減少傾向にあり、特に10代・20代はネット平均利用時間がテレビ視聴時間を上回るという調査結果が発表されています。若者をターゲットにしている広告主は、その予算をテレビ広告からインターネット動画広告に移し始めました。
こうしてニーズが高まり、配信技術が整いつつあった2014年に316億円だった動画広告の市場規模は2016年は842億円に成長しました。今後はモバイル端末からのキャッチアップ視聴テレビ番組の放送直後、インターネット上でその番組をオンデマンド配信すること。見逃し配信とも言う。の増加や、SNS上での動画再生の伸びが予想され、2022年に2,918億円にのぼるという予測が出ています。
押さえておきたいポイント②動画広告の種類
近年急速に発展してきた動画広告ですが、現在日本で配信されている動画広告は主に2つに分類されます。テレビCMのように動画コンテンツの冒頭や途中に挿入されるものと、ウェブやアプリの広告枠や記事内に配信されるものです。前者はインストリーム広告、後者はアウトストリーム広告と呼ばれています。それぞれを詳しく解説していきましょう。
インストリーム広告
インストリーム広告は前述したとおり、動画コンテンツに挿入される動画広告です。画面占有率の高い動画プレイヤー上で、音声がONの状態で再生されるので、広告主からは高い認知効果が期待されています。
インストリーム広告の主流、TrueView
インストリーム広告は「GYAO!」や「ニコニコ動画」、その他ニュースサイトなどの動画コンテンツを持つ媒体社が展開していますが、現在の主流は言わずと知れたYoutubeのTrueViewです。YoutubeはGoogleが運営主体なので、広告主はGoogle Adwordsから入札し出稿します。TrueViewには動画コンテンツの前に挿入されるプレロール広告、途中に挿入されるミッドロール広告、コンテンツ後に挿入されるポストロール広告があり、いずれも5秒経過すると「広告をスキップ」というテキストが現れユーザーは広告を見続けるか、動画コンテンツに切り替えるかを選択することができます。いずれもスキップ不可にする設定が可能で、その場合ユーザーは最後まで広告を視聴しないと動画コンテンツに到達できません(スキップ不可の場合は最大で15秒~20秒ほどの尺です)。広告が表示されるたびに料金が発生するわけではなく、ユーザーが動画を 30 秒間(30 秒未満の広告の場合は最後まで)視聴するか、30 秒未満でも動画広告のクリッカブルエリアをクリックした場合に料金が発生します。ユーザーが広告をスキップした場合、料金は発生しません。
TrueView広告の最大の特徴は広告を配信するユーザーのセグメントを絞りターゲティング配信ができることです。またGoogle Adwordsのリマーケティング機能にも対応しているので、広告主は自社サイトに訪れたことがあるユーザーにのみ動画を配信することができます(逆に、TrueView広告で動画視聴をしたユーザーに他サイトでバナー等を表示させることも可能です)。また、Youtubeアナリティクスを活用し動画広告自体の効果検証ができるので、広告効果の追求がしやすいこともTrueView広告が支持されている一因だと考えられます。なおTrueView広告にはインストリーム以外にも、「Youtube」内の検索結果画面にリスティング公告のように表示されるインサーチや、動画視聴ページやチャンネル上でコンテンツとの関連性の高い動画のレコメンドの一番上に表示されるインディスプレイといったフォーマットもあり、ユーザーがクリックして動画が再生された場合に料金が発生するCPC課金になっています。
インストリーム広告の導入を可能にするコンテンツエクスチェンジ
インストリーム広告はその高い認知効果から収益性も高く、媒体社の新たな収益手段としても注目されていますが、導入できるのは動画コンテンツを持つ媒体社に限られてしまいます。インストリーム広告枠在庫の少なさは、動画広告市場を伸ばす上での課題です。それを解決する一つのソリューションとして、コンテンツエクスチェンジが注目を集め始めています。コンテンツエクスチェンジとは、動画コンテンツを持っているコンテンツホルダーとそれを利用したい媒体社が、自由に売買できる仕組みです。媒体社は、動画コンテンツを視聴数単位(CPM)で購入する事が出来たり、動画広告の収益をコンテンツホルダーとレベニューシェアする事ができます。AOLが買収したVidible(ONE by AOL: Publishersで利用することが可能)やbright coveがサービスを提供しています。
アウトストリーム広告
アウトストリーム広告は、ウェブやアプリの通常の広告枠内や記事内に配信される動画広告です。インストリーム広告を自社サイトに導入する場合、動画プレイヤーや動画コンテンツが必要になりますが、アウトストリーム広告は既存の広告枠や記事内にタグを設置するだけで配信が可能です。つまり動画コンテンツを持たないWebメディアやアプリにも配信ができます。主にCPV(Cost Per View)という動画が視聴された際に料金が発生する課金方式が採用されていますが、動画が再生され2秒後に料金が発生するものもあれば、視聴時間に応じて料金が変わってくるものなど、SSPやネットワークによって課金タイミングは様々です。
アウトストリーム広告は掲載場所によって、インバナー(インディスプレイ)広告、インリード広告、インフィード広告、インタースティシャル広告の4種類に分類できます。
インバナー(インディスプレイ)広告
インバナー広告はウェブサイトやアプリのバナー広告枠に掲載されるものを指します。バナー広告枠内での再生になるので、インストリーム動画に比べ視認性は低くなりますが、マウスオーバーすると拡大し画面上に大きく表示される仕様のものなど、リッチアドの流れを汲んでいるものも多くあります。
インリード広告
インリード広告は、今読んで頂いているような解説記事やニュース記事、ブログ記事などのテキストコンテンツの途中や末尾に掲載されるものを指します。既存の広告枠に変更を加えずに動画広告を配信することができるので、導入ハードルは低いです。ユーザーがスクロールし、動画が画面に表示されたタイミングで再生されるものが多く、記事の途中に挿入したとしても、動画広告自体は冒頭から視聴させることができます。
インフィード広告
FacebookやInstagram、Twitterなどのフィード内に掲載されるものを指します。SNS以外にも、フィードを持つ媒体であれば掲載が可能です。
インタースティシャル広告
アプリやWebサイトの画面遷移時やロード時にポップアップ表示されるものを指します。インリード広告同様、既存のコンテンツや広告枠の変更をせずに実装できるため、導入しやすいという特徴があります。しかし2017年1月より、Googleモバイル検索で「煩わしいインタースティシャルが表示されるページ」の評価を下げるアルゴリズムが実装されました。導入する場合は、ユーザーの操作の邪魔をしない実装を心がける必要があります。
押さえておきたいポイント③広告配信規格
現在配信されている動画広告のほとんどは、VASTという規格に沿って配信されています。米ネット広告団体 Interactive Advertising Bureau を中心に、BrightcoveやAdobe Systems、Googleなどが協力し策定された規格です。以前はアドサーバー・動画プレーヤー間での通信のやりとりを個々で決めてからでないと動画広告配信が出来ない時代もありましたが、このVASTが策定されてからは、共通のフォーマットでのやりとりが可能になりました。ここでは動画広告配信に用いられる基本的な規格、VAST、VPAID、VMAPをご紹介します。
VAST
VASTとは「Video Ad Serving Template」の略で、動画プレーヤーに広告を配信する広告タグを構造化するための動画広告配信テンプレートです。 XMLスキーマを使用して、広告に関する重要なメタデータをアドサーバーからビデオプレーヤーに転送することができます。これにより、動画のインプレッション数やクリック数、動画の再生数(中間点、最後まで再生された回数)やミュートが押された回数などがアドサーバーに返されるようになりました。
VPAID
VPAIDとは「Digital Video Player-Ad Interface Definition」の略で、動画プレーヤーと広告のインターフェース定義です。API規格で、動画の中へSNSのアクションボタンを埋め込めたり、ユーザーに複数の動画の選択肢を与えたりと、リッチな広告表現を実現しています。
VMAP
VMAPとは「Digital Video Multiple Ad Playlist」の略で、動画広告を動画本編のどのタイミングに挿入するかという情報をやりとりするための規格です。これによりミッドロールやポストロールといった広告メニューが可能になっています。
動画広告の普及にともないパブリッシャーに期待されること
動画広告について基本的な解説をしてきましたが、この先動画広告はデジタル広告市場の成長を牽引していくことが予想されます。広告主は、動画広告の普及により、インターネット広告にブランディング効果を期待するようになってきています。これまでのテレビCMとは違い、動画広告は時間の制限がないのでオリジナル制作した長編広告を流したり、インタラクティブ性を持たせたりするなど、エンターテイメント要素の高いコンテンツを提供することが可能です。しかしそれによってユーザビリティを損なってしまっては、広告主にとっても、パブリッシャーにとってもマイナスになってしまいます。パブリッシャーは、これまで以上にユーザーと丁寧なコミュニケーションを実現し、高いユーザー体験を提供していくことで、より広告主とユーザーのエンゲージメントを高めることを期待されています。
まとめ
- 日本の動画広告市場は、配信環境が整い、ニーズが高まりを見せた2014年頃から盛り上がり始め、今後も成長が期待されています
- 動画広告には、動画コンテンツに配信されるインストリーム広告と、動画コンテンツ以外に配信されるアウトストリーム広告があり、いずれもVASTという標準規格により配信されています
- 動画広告が今後さらに普及するにあたり、パブリッシャーはこれまで以上にユーザーと丁寧なコミュニケーションを実現し、より広告主とユーザーのエンゲージメントを高めることが期待されています