アプリソリューション本部コンサルタントのはなしーこと花島です!
今回は大人気まんが・電子書籍販売アプリ『ebookjapan』運営の株式会社イーブックイニシアティブジャパン ebookjapan事業本部プロダクト企画チームの星野さまにインタビューいたしました。多くのアプリが乱立するコミック業界での競合との差別化や、広告マネタイズを一切行わず、未課金ユーザーの収益化と課金転換を行なっていくための施策についてお伺いいたしました!
お話を伺ったのは……
株式会社イーブックイニシアティブジャパン
ebookjapan事業本部
プロダクト企画チーム
星野正守氏
『ebookjapan』とは創業20周年を迎えた大人気読書アプリです。3000作品以上の作品を読むことができ、少年、青年、女性、少女マンガなど、幅広くだれでも楽しめるマンガが公開されています。毎日無料チケットが配布されており、チケットを利用して無料でレンタルして読むことも、また気に入ったマンガはコインで購入もできます。購入した作品は自分の本棚に並べられ多くの巻が揃った背表紙は圧巻です…!「無料レンタルでサクッと」でも、「購入してじっくりコレクション」とでも楽しみ方は自由自在!!ライトユーザーからコアユーザーまでお使いいただけるアプリです!
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御社・担当者さまの自己紹介
ーー会社とご担当者さまの自己紹介をお願いします。
星野さん:株式会社イーブックイニシアティブジャパンは電子書籍販売サービスの『ebookjapan』と、紙書籍オンライン販売サービスの『bookfan』の2つのサービスをヤフー株式会社と協力、連携して運営しています。
私はebookjapan事業本部プロダクト企画チームに所属しております。
企画チームは開発ディレクションなど、開発の取りまとめを行なっています。その他ではマーケティングチームは広告出稿や、アプリ内キャンペーン管理を担当、広報チームなどもあります。『ebookjapan』はヤフーと共同ではなく、基本的にイーブックジャパンが担当しています。
ーー企画チームの配属になる前はどちらの部署をご経験されましたか?
星野さん:イーブックジャパンに入社して5年なのですが、最初は開発がメインで、今は企画も行うようになりました。それまではアプリやマーケティングにはほとんど関わったことがありませんでした。今回から少しずつ関わってきました。
アプリ『ebookjapan』について
ーー『ebookjapan』のご紹介をお願いします。
星野さん:『ebookjapan』は取り扱い冊数がマンガを中心に65万冊を超える、国内最大級の電子書籍販売サービスです。また常時2,800冊を超えるマンガを無料でお楽しみいただけるサービスにも力を入れています。
セールをはじめとした多彩なキャンペーン、全巻読み放題等の独自施策を実施しています。特徴としてPayPayがご利用いただけます。またYahoo!プレミアム会員なら、さらにお得にご購入いただけます(どちらもWebサイトのみ対応)。
ーー『ebookjapan』はアプリ版とWeb版がありますが、ユーザー層の違いや運営・集客方針の違いはありますか?
星野さん:もともとWebを中心に展開していましたが、コミックアプリがかなり伸びてきている中で、アプリでしか獲得できないユーザーもいるのではないか?と考え、2年前にコミックアプリをリリースするに至りました。
Webサイトもヤフーと当社がそれぞれで運営していた「Yahoo!ブックストア」と「eBookJapan」がサイト統合してできたものでして、当時の読書アプリから利用してくださっているユーザーも引き続き利用してくださっています。
アプリはWebに比べると新規ユーザーが多く若いユーザーが多いのが特徴的です。
ーーWebとアプリのユーザー数の比率はどのぐらいですか?
訪問ユーザ訪問ユーザーだと、Webが大半を占めております。
Webが多いのは当社以外のヤフーグループの各チャネルから多くの誘導を仕込めている影響が大きく、他の電子書店にはない特徴になります。
ーーヤフーグループからの誘導とはどのようなものですか?
星野さん:一例になりますが、「Yahoo! JAPAN」トップページのメニューから直接遷移できたり、最近はタイムラインと呼ばれるニュースが流れる部分にも導線を設置してもらえており、多くの流入がきています。
アプリでは、ソフトバンクのスマートフォンにデフォルトで搭載(プリインストール)されていたり、PayPayからの誘導をもらえていたり、グループ内でシナジーが生めている状況です。
ーーユーザー層についてはいかがでしょうか?
星野さん:ユーザー層の特徴としては性別のバランスは男女半々で若干女性が多く、年代は30〜40代中心です。起動時間は、コミックだけでなく書籍系も扱っているため、現時点でも他社様に比べて長めになっていると思っております。
ーーユーザー行動としては生活のどのタイミングでの利用が多いとお考えでしょうか?
星野さん:1枚で1話読める無料チケットの回復プッシュ通知を通勤と夕食後の時間帯(毎日朝8時と夜20時に4枚ずつ配布)に打っており、その時間帯はアクセスが多くなっている傾向です。
競合アプリとの差別化について
ーー競合他社との差別化点ポイントはどちらでしょうか?
星野さん:読書体験とヤフーというプラットフォームでの利用です。
読書体験は背表紙、読ませ方の豊富さ、本棚の使い易さ、またヤフーというビッグプラットフォームを利用した体験です。
ーーその理由はなんでしょうか?
星野さん:『ebookjapan』は無料読書、購入だけでおしまいではなく購入した蔵書を読書するまでがコミックアプリだと考えています。前身が読書専用アプリであったこともあり、「本を読む」という体験には一番自信があります。
読ませ方の豊富さ
- 横スクロールと縦スクロール両方可能
- 「しおりが挟める」、「マーカーが引ける」というような「リアルな本ならではの体験」を提供(しおりとマーカーは書籍のみ)
背表紙
- 購入した本の一覧(本棚)では背表紙を並べることが可能
- 創業当時からこだわっている仕様で同様の実装は他ではない
星野さん:当社のユーザーは昔からのマンガ愛好家も多く、収集した単行本を本棚に並べることに満足感や達成感を感じられる方が多いことがわかっています。
出版社や漫画家の皆さんも背表紙には大変なこだわりを持たれていて、例えばドラゴンボールですと、1巻から並べていくと背表紙がつながって壮大な絵巻物が現れます。当社ではこういった楽しみ方を体験電子書籍でも体験可能な仕様にしており、コレクションするという蒐集欲を満たすことにも繋がります。ユーザーからかなり好評で、これがあるから『ebookjapan』を使っているという方もいるくらいです。
ーー競合アプリですとレンタル等が多いですが、そのデメリットは何とお考えですか?
星野さん:レンタルだと、好きな時に読めないことがデメリットになるかなと考えています。
弊社でも72時間レンタルはしておりますが、やはり好きな時に読める購入型の方がユーザーさんのメリットもあるだろうなと考えております。
ーー『ebookjapan』ユーザーが得られる競合コミックアプリとの違いは何でしょうか?
星野さん:生活の一部として利用されている方が多い、ヤフーの各種サービスからの誘導だと考えています。
ーー「ヤフー株式会社」の経営理念は【情報技術で人々や社会の課題を解決する】と拝見しました。『ebookjapan』が解決している課題はなんでしょうか?
星野さん:例えば、今回のコロナ禍においては、エンタメがない生活はストレスになってしまうという課題があり、『ebookjapan』はユーザーさんが抱える不安やストレスの解消の一助にはなっていると考えております。
例えばヤフーは「Yahoo!ショッピング」を展開しており、様々な商品をインターネットで便利に購入できるようにすることで生活の課題解決を手助けしていますが、広く捉えれば電子書籍やマンガもEコマースの一部であり、同じく課題解決に通ずるものがあると考えています。
ーーコロナ禍によってユーザー流入は増えていますか?
星野さん:増えていますね。外出が難しくなったこともあり、自宅でできる動画視聴やマンガ購読がかなり増えた印象があります。やっぱりユーザーさんは書籍を読んでるなぁと実感します。
ーー差別化によるメリットはどうお考えですか?
星野さん:マンガ好きな人にはとても趣向に合っていると思います。特に本棚の機能は便利で使いやすいというお声は多いです。
また、「フォルダロック」という機能があり本にロックをかけることができます。
例えば、保護者さまがお子さんに本を読ませたいけど、自分の本棚の本は全部は読ませられないとか、友達にこの本だけ見せたいときに便利です。
ユーザーの方からのコメントで、保護者さまがお子さんに「テストで100点とったら次の本読んでいいよ」と約束して、テストを頑張ったら次の巻のロックを解除するような使い方ができて重宝しています、というコメントが届き、心が温まりましたね。
「フォルダロック」は書籍系アプリには一部ありますが、コミックアプリにはない機能かと思います。
ーー差別化によるデメリットを教えてください。
星野さん:直感的に使えないこだわった機能が増えてきたため、ライトなユーザーにとっては少し複雑になってきてしまっているのが課題です。
今まで本好きなユーザーが多かったのですが、最近は新規で入ってくる若いユーザーも増え、ユーザー層が多様化しています。そのため幅広く満足していただくのが難しくなってきたと感じています。
ーー幅広いユーザー層に満足していただくためには何が必要だと考えられていますか?
星野さん:ヘビー/ライト関わらず、その人にとっての面白いマンガをレコメンドすることが重要だと考えてます。
未課金ユーザーの収益化/課金転換について
ーー未課金ユーザーの収益化/課金転換には何が必要とお考えですか?
星野さん:課金の心理的ハードルを下げる必要があると考えています。
ーー課金、未課金の比率はどのくらいでしょうか?
星野さん:課金割合はまだまだ胸を張って言える数値ではないですね……。
ーー課金作品の特徴はありますか?
星野さん:その時々のトレンドのものを課金することが多いです。最近ですと『鬼滅の刃』などですね。
ーー経験的に施策によってどのくらいの割合で課金へ転換できると把握されていますか?
星野さん:そこは私たちもまだ検証段階です。この1~2年は「eBookJapan」と「Yahoo!ブックストア」のサービスを1つにするところにかなりのパワーを掛けていましたので、新規施策に本腰を入れて取り組むのはまだこれからという状況です。
ーー課金施策についてお伺いさせてください。
星野さん:最初の課金のハードルを越えるのはとても難しいです。
そのため、途中まで無料の施策を充実させるのと、ボーナスコインを配布して購入体験をしてもらう施策を行なっています。
ーー最初の課金はどのくらいのタイミングで行われることが多いのでしょうか?
星野さん:ユーザーの目的によっても異なりますが、満足するタイミングは様々です。1年後に急に課金するユーザーがいたりもします。ただ、概ね30日以内には課金してくれる傾向にあり、最初の7日に課金してくれるユーザーはファンになってくれる確率が高い傾向があります。
ーー無料チケットの目的、効果について教えてください。
星野さん:さまざまな作品を読んでもらうことと、一つの作品を深く読んでもらって作品自体を好きになってもらうことです。無料チケットの施策後、続きや関連書籍が売れるようになりました。
サービス開始当時から基本機能として無料チケットを導入していたので、効果の比較は難しいのですが良い反応だと考えています。
ーー無料チケット配布で課金・継続率を伸ばすコツはなんでしょうか?
星野さん:配布タイミングと所有上限枚数です。
無料チケットは1回4枚ずつで朝8時と夜20時に回復するので、ユーザーは1日合計8枚獲得できます。
チケットは1回で4枚回復できますが、一度に所有できるのは4枚分が上限のため、無料チケットを毎日効率よく利用するには回復までに使い切ることが必要です。そのタイミングでプッシュ通知を打って確認してもらうように設計しています。
ちなみに無料チケットは1枚で24時間レンタルができるため、4枚分使って作品をレンタルし、時間になったらさらに4枚分チケットを受け取ることが可能です。そうやって時間のある時にまとめて作品を読んでいるユーザーもいると思います。
ーー無料連載/1冊無料作品の目的、効果について教えてください。
星野さん:一部、全巻無料などを行うことによってアプリを好きになってもらい、続きの巻を買っていただくことを目指しています。
ーー無料連載 / 1冊無料作品を行うためには出版社や作者さまとどのような交渉を行われていますか?
星野さん:出版社さまには「ヤフーグループであり、たくさんのお客様にリーチできる点」をご提案し、ユーザー層にマッチした作品を独自でもらえるよう交渉しています。3月には独自の施策を多く展開することができ、最終巻の手前の巻まで無料提供しておりました。
独自で無料展開することができた施策
- 秋田書店様『グラップラー刃牙』
- 白泉社様『3月のライオン』
- KADOKAWA様『新世紀エヴァンゲリオン』
- 横山光輝先生『三国志』
ーー広告なしの作品レンタルのこだわりについてはいかがでしょうか?
星野さん:ユーザーのことを考えて、今は煩わしさなどを排除しています。
広告についてはリリースから2年経過し、少しずつ検討もしていこうと考えています。その際はUXを損なわずに広告導入できるか?という部分にこだわって考えたいですね。競合他社を見る限りでは、例えばトップページ下のバナーや動画リワード広告などはUXを損なわず導入できているので良さそうと感じています。
ーーそのほかのこだわりのある施策をお聞かせください。
星野さん:他社にない作品を販売することを行なっています。
特に特徴的なのは『デビルマン』や『キューティーハニー』の作者である永井豪先生の作品や、『三国志』で有名な横山光輝先生の作品などです。ebookjapan独自の作品もあるので、それが目当てで来るユーザーもいると思います。
ーー施策を行なってプラスだった点・マイナスだった点はありますか?
星野さん:プラスだった点としては、その作品を足がかりに続刊を買ってもらえることです。マイナスとしては、無料部分を読んだら来なくなるユーザーが一定の規模で出てしまうところです。
ーーそれに対する現状の対策は何かございますか?
星野さん:プッシュ通知や、最終巻だけ読めないと気になって買ってもらえるので、そういった施策を行なっています。
プッシュ通知はAndroidを利用しているほとんどのユーザーが許可してくれており、iOSでは全体の2割くらいです。
ユーザー数/ユーザー継続率を伸ばすための施策について
ーーもっとも重要としている指標はなんですか?
星野さん:新規ユーザーの翌日リテンションです。現在競合他社に比べると当社はまだまだ低いですが、早期に競合水準に持っていきたいと考えております。
翌日にもアプリを使ってもらって、日常のルーティンに入れてもらえたらと考えていますが、徐々に落ちてきてしまっているので、現在は重要KPIとして置いています。
ーー他社より低い理由は何だとお考えですか?
星野さん:『ebookjapan』 の1つの作品をじっくり深く読んでもらうという作りが影響していると思います。他社様で多く見られる1日1話をライトに広く浅く作品を読んでもらう浅さという作りはリテンションに通ずるのではないかと考えています。
他には、ユーザーを絞っているアプリなどでは「替えのきかなさ」が強いのでは?と思います。オリジナル作品の数も可能性としてはあるかと考えています。
あとはログインボーナスなどの施策もやっぱり効いているのかなと思いますね。
ーー効果的だった施策はありますか?
星野さん:無料チケットの部分でもお話ししましたが、プッシュ通知は効果的でした。
星野さん:昨年12〜2月末まで行っていたボーナスコインをつけての販売はかなりよかったです。ユーザーの購入額は1.2~1.3倍くらいにアップしました。
価格帯としては2,000円が売れていて、画像内の29,800円の価格帯も通常時の10倍売れておりました。
ーーあまり効果的でなかった施策はありましたか?
星野さん:つい最近、1日に無料チケットを4枚使っていただいたユーザーに対してボーナスコインを配布していました。これはダウンロードしてくれたユーザーだけに、翌日のリテンションをあげる施策として1週間試したのですが、正直あまり効果がなかったです。そもそもチケットを4枚追加使い切るユーザーも少なかったのも要因かもしれません。
ーープロモーションの活用はおこなわれていますか?
星野さん:大手のアドネットワークは全て利用しています。
ユニバーサルアプリキャンペーン(UAC)やFacebook、Instagram のボリュームが大きいです。
Facebook や Instagram は、スワイプでマンガをパラパラめくる感じのものが出せるので相性がかなり良いと感じています。
Instagram は CV のボリュームは取れますが、CVRはそこまで高くないです。ただ、CPIが安くたくさん取れるので出稿しています。
CVR が高いのはニーズが明確なところに出せる AppleサーチAds ですね。
ボリュームはUACやSNSが大きいですが、アドネットワークを活用し新規媒体の発掘もしています。3~4社で効果を見て切り捨てたり、追加したりを繰り返しています。
ーー広告の時に推している作品はありますか?
選定軸が10~15個ほどあり、軸にそってクリエイティブを作成しています。主に競合で出ている、トレンドになっているなどの条件が選定軸です。
マネタイズの方針/変遷について
ーーマネタイズの大方針はなんですか?
星野さん:課金中心です。
まだリリースして2年のサービスなのでユーザーの利便性を考慮して、現在広告は行なっていません。
ーー今まで試された課金導線や企画などはございますか?
星野さん:ボーナスコイン販売企画、話の読み終えたタイミングで一冊の書籍を勧めるものなどを試しました。
ーー新しく考えられている導線はございますか?
星野さん:機械学習を日々改善していき、特にレコメンド精度が上がるよう基本的な部分からPDCAを回していこうと考えています。弊社ではセカンドサイト社のマンガ自動タグ付けAI を導入しています。これによって適切なタグが迅速に追加できます。
今後について
ーー今後の展望についておきかせください。
星野さん:面白い作品を皆様に知ってもらいたいので良い作品をお届けできることと、ユーザーの意見を真摯に捉え、快適な読書体験を追求していきたいです。ヤフーのビッグデータを使ってユーザーの行動を元に最適なレコメンド発信も行なっていきたいですね。あくまで、こういうことをできたら面白いなという一案ですが。
例えば、ライブ会場にいたら、そのアーティストの本をレコメンドするなど連携できる未来があると面白いなと思っています。
ーーアプリ業界の展望について
星野さん:電子書籍業界は成長が鈍化してきていると言われて久しいですが、なんだかんだ言って、市場予測を上回った成長を続けています。引き続き電子書籍市場は右肩上がりではあるものの、NetFlixなど動画コンテンツが出て来たりと、可処分時間の取り合いは続くので頑張ります。
ーー最後に一言
星野さん:アプリを運営しているからにはNo.1を目指して頑張っていきたいです。例えばARの本棚など、新しい技術を使ってユーザーが楽しく読書ができる体験を提供できればと考えています。
LINEマンガやピッコマに負けないアプリを作っていきたいです。