アプリソリューション本部コンサルタントのはなしーこと花島です!今回はアプリ黎明期から現在までなが〜く愛されている『まりも』の開発者である小川さんにインタビューさせていただきました!iOSアプリを長く作られてきた小川さんのアプリ開発への思いなどもお伺いしました。
お話を伺ったのは・・・・・・
個人開発者
小川航佑氏
『まりも』とは……
『まりも』は90万ダウンロード突破の大人気まりも育成アプリです。水槽で小さなまりもを育てていきます。まりもは毎日少しずつ大きくなっていきますが、放っておくと水が濁ってしまったり、さらには枯れてしまうため、定期的に水をあげていきましょう。まりもを触ったり画面を傾けるとふわふわと動く姿に癒やされます。背景を変更してお好みの風景を再現したり、遊び方は様々!ペットのように名前をつけてまりもの成長を楽しみましょう!
自己紹介・アプリについて
花島:自己紹介をお願いします!
小川さん:小川です。個人でアプリを作っています。開発を始めたのが2010年ぐらいで10年ぐらい個人開発をしています。
花島:アプリ開発を始めたきっかけを教えてください!
小川さん:本業がエンジニアです。今も『アル』というマンガの新刊・無料情報メディアを開発・運営している会社に所属しています。『まりも』の開発を始めた当時は、違う会社でアプリ開発をしていました。
個人でのアプリ開発は、個人でも何かを作ってみたい!好きなものを自由に作ってみたい!と思って始めました。一番最初のアプリは『まりも』です。実はプログラミングの勉強のために、練習のつもりで作りました。その後もいくつかアプリをリリースしましたが、結果的に『まりも』が1番DL(ダウンロード)されてますね。
花島:『まりも』の誕生秘話についてお聞かせください!
小川さん:まりもをアプリで育てたいなぁと思って作りました。リリースして9年くらい経過しています。
『まりも』は画面に〇(まりも)を描く、指でドラッグ、音、画面のどの位置にいるかの判定、転がる(加速度センサー)などの技術を使ったアプリです。「時間と共に変化する」というプログラミングの勉強としてはちょうどよかったですね。
開発自体は10日くらいで完了しましたが、Apple Store申請の際にかなりリジェクトされ、結局リリースまで3か月ぐらい時間を費やしました。
現在95万DL数で、マックスむらいさんの動画に取り上げられた時にはDLが一気に伸びました。
ただし、今同じものをリリースしてもウケないかもしれないので、タイミングがよかったのかなとも思っています。
小川さん:1万DL の時期は2010年10月でリリース直後に話題になった時です。
その後、2年ほどはダウンロード数も落ち着いていました。
2万DLの時期は2013年8月くらいで、この頃は「ASCII.jp」などいろんなメディアに取り上げていただけることが多かった時期です。
3万DL の時期は2015年1月で、マックスむらいさんにYouTubeで紹介いただいた時です。
花島:実装されている機能や今まで行われた機能アップデートについて教えてください!
小川さん:『まりも』は加速度センサーというiOSの機能を使用しています。これによってスマホを傾けるとその向き・速さに合わせてまりもが転がります。
転がり方については、初期のものは四角形の当たり判定しかできなかったのですが、iOS8から追加された機能により、円形でも当たり判定が行えるようになりました。これでより滑らかにまりもが転がるようになりました。
小川さん:それから、iPhoneを明るい場所に持っていくと反応する機能があります。これは「太陽の下に持っていくとまりもがふわっと浮かび上がって光合成するよ!」というものです(笑)
実際のまりもも光合成をして日なただと浮かび上がってくるそうです。
この機能は輝度センサーという技術を使っています。一見意味のない、メリットのない機能なのですが、シュールでユーザーに受けました。
小川さん:結果的には光合成の機能を導入して起動率が上がりましたね。
『まりも』のリテンション率は20日後でも20~30%ぐらいあります。その後も半分ぐらいのユーザーが継続しています。ですから、ざっくりDLしたユーザーの10%〜15%はその後も継続して遊んでくれているという感じですね。これは育成アプリの特徴ということかもしれませんが……。
花島:開発の中で失敗してしまった経験は何かございましたでしょうか?
小川さん:バナー広告を設置したらレビューが荒れたことがあります。
最初は設置していなかったのですが、あとから収益化のため設置しました。
バナーを画面の上の方に置いたら「邪魔だ」とレビューがすごく荒れました。
「金に目がくらんだのか!」と書かれて★1のレビューされたり……。
花島:運営するためなのにそれは残念ですね……。
小川さん:そのあと画面下部にバナーを出すようにしたら何も言われなかったです。
アプリによるのですが、広告を設置するときは位置を気にしたほうがいいかもしれないですね。当時はレビューにコメントする機能がなかったので、レビューの荒れば沈静化するのを待つしかなかったです。
花島:その後レビューへの対策など取られていますか?
小川さん:好意的なものにはコメントして、悪質なものは通報してから削除してもらっています。
花島:レビューでは「引き継ぎ」や「まりもは成長するとどうなるのか?」など様々な質問があると思いますが、どう対処されていますか?
小川さん:『まりも』のコンセプトとして「謎を残しておく」というものがあります。そのため、機種変したので引き継ぎたい、まりもは最終的にどうなるか等の質問はあえて回答していません。
個人的に謎にしておきたいと言うのと、謎が多くて使ってくれると思っています。
花島:最終的にどうなるのでしょうか?こっそりおしえてください……!
小川さん:それは秘密です(笑)
アップデートについて
花島:普段はどのようなアップデートを行っているのでしょうか?
小川さん:まりもの転がり方など、細かい部分のアップデートを日々行なっています。
レビューでは「まりもに顔をつけたい」などの要望もあるのですが、世界観が壊れるので、自分の中でそこは曲げたくないと思っています。同様に水槽になにかを追加する、というのもしたくないです。
現在はアップデートについて考え中です。
『まりも』ではiOSのバージョンがアップされる時に追加される機能を使うことにしています。
「ダークモード」も最近のiOSのバージョンアップに合わせて対応したひとつです。
iOS11でも新しい動き方が追加されたので、『まりも』にもそれを導入しました。今年はiOS14が出るので、面白い機能が追加されたら『まりも』に追加しようかと考えています。
花島:今まで追加した中でこれは良いという機能追加はございますか?
小川さん:タイマー機能ですね。頻度は3~4週間で、放置しておくと「水を変えて」などのプッシュ通知がきます。特に意識せずに実装したのですが、起動率があがってリテンションに繋がったので、施策としてはよかったです。
花島:『まりも』では水換えが一瞬なので、「育てたまりもが枯れちゃう」と思うと手を止めてでも水を変えたくなります。そうすると愛着もわきますし、アプリを続けたくなりますね。
花島:ちなみにこれはあまり評判がよくなかったというものはございましたか?
小川さん:3Dの動きはあまり反応はよくなかったですね。
今は2Dで縦横に平面に動くのですが、3Dで奥行きのある空間に動くものも作りました。
試してもらった方からは「意味が分からない」「よくわからない」などの反応でした。
固定の場所からしかまりもを見ることができなかったので、視点変更とかやってもよかったかもしれないですね……。
花島:ちなみに某ゲームの「リセットさん」的なものはあるのでしょうか?ずっと放置しているとまりもに怒られる的な……。
小川さん:まりもが喋る訳ではないのですが、実は実装されています。
まりもは植物なので長期間水を変えないと腐って枯れてしまいます。そのため枯れるギリギリでもプッシュ通知しています。
花島:大事に育てたまりもですから、忙しくても枯れないように水を取り替えたいですね!
開発体制について
小川さん:先述した通り10日間ぐらいで開発し、リジェクトされまくって3か月ぐらいでリリースしました。全部ひとりで開発しています。
プログラムは1人、デザイン・アイコン・背景は外注で頼んでいます。
アイコンは5~6年前ですが当時5,000円ぐらいで依頼しました。
背景はデザイナーさんを募集してお願いしました。
実は背景は自分で変更できます。Twitterなどでシェアされているのを見ると好きなアイドルとかにしている人もいますね。
リリースした時は思ってもいない使い方をする人もいるので面白いですね。
アプリ開発について
花島:『まりも』以外には他にはどんなアプリを開発されているのでしょうか?
小川さん:ツール系が好きでいろんなアプリをリリースしています。
FastCheckin
『Swarm』『Foursquare』といった位置情報のログをとったり友人に共有できるアプリを簡単に使えるようにした非公式アプリ
小川さん:『FastCheckin』は本家のアプリが重いのでそれを補助するためにつくりました。
節電グラフ- 東京電力の電力使用状況をグラフ表示
東京電力の使用電力ができるアプリ
小川さん:『節電グラフ 』は震災が起きた時に自分もなにか役に立てないかと思い作ったアプリです。被災中心地以外でも節電や計画停電などがあったので、使用電力をグラフ化したいと考えました。非公式アプリです。
東京電力が公開しているデータは使いづらいので、web上で公開されている非公式の使いやすくカスタマイズされたデータを使用しています。
ところが、このアプリは中々審査通らなかったです。
理由としては「機能がシンプルすぎてアプリである必要がない」のような理由でリジェクトされていました。月単位だけでなく日単位も見られる機能など、思いついた機能を追加してから再審査をしてもらって、ようやくリリースできました。
花島:審査を通りやすくしたり、リジェクトを防ぐ秘訣などはございますか?
小川さん:開発者仲間からもそういった相談を受けることがあるのですが「アプリを作りたい」という理由だけで作ると審査に落ちることが多いです。
『節電グラフ 』同様にwebでもできるという理由で、大体リジェクトされてしまいます。単純なwebviewアプリなどは審査が厳しいですね。
リジェクトされてしまったと相談された時には、「iPhoneでしかできない機能を付けたら?」とアドバイスすることが多いです。例えばカメラを使ったり、プッシュ通知をつけたり、位置情報を取り入れたりするなどです。アドバイスによって機能を追加し、実際にリジェクトから再審査が通ったという方もいらっしゃいますね。
花島:確かに『まりも』や『FastCheckin』など小川さんの開発されたアプリはどれもiPhoneでしかできない機能が実装されています。これならユーザーはアプリで利用しようと思いますね!
プロモーション・マネタイズについて
花島:プロモーション・マネタイズについて教えてください。
小川さん:プロモーションは Apple Search Ads をリリース当時利用しました。
当時1万円まで無料で使えるキャンペーンがあって利用したのですが、その時はあまり効果がありませんでした。それ以降は、特に何もせず、現在はオーガニック流入のみです。
マネタイズはバナー広告、インタースティシャル広告を導入しています。
最初はアドネットワーク単体を使っていましたが、一時期から単価が下がってしまいAdMobに切り替えました。
売り上げは月間で平均10万〜20万くらいです。
ちなみに以前マックスむらいさん動画で取り上げていただいた時は月で50万円くらいになりました。
花島:リリースして9年経過しても愛され続け、収益化できているとうのはすごいことですね!
今後の展望・最後に
花島:今後の展望についてお聞かせください。
小川さん:『まりも』に関しては、iOSの進化に合わせて機能を追加していきたいです。
また、自分が欲しいものを作りたいです。いいアイディアがあればすぐ作っていこうと思っています。
開発の流れとしては、思いついたらまずプログラミングしてみる。
そして最低限の機能が揃ったらサイレントリリースします。
早くリリースすることでAppleさんの反応を見て、もしも問題があれば早めに軌道修正できます。また同じようなアプリを開発している人がいる可能性があるので、先に思いついていたとしてもリリースが遅れてしまうと大変です。
そこから家族、開発者仲間など一部の人に使ってもらいます。
『まりも』もボタンが押せないバグがあったのですが家族がテストしてくれたおかげて見つけることができました。
小川さん:また、まりもに名前がつけられる機能はユーザーさんから愛着がわくとお問い合わせがあり追加しました。他のアプリでは「ログアウトボタンが左側にあって間違って押してしまう」という声があったので押されにくいところに移動しました。(FastCheckin/ iOS)
こういった開発者自身では気づきにくいバグや機能もありますので、ぜひ試作品を誰かにテストしてもらうことをおすすめします。
花島:最後に一言お願いします。
小川さん:個人でアプリを出してみて得たものは多かったので、みなさんも是非作ってみるといいのではないでしょうか?
仕事で作るものとはまた違ったものが得られますし、作ったアプリには愛着もわいてきます。メリットしかないので、作りたいものがあれば開発してみましょう。
『まりも』みたいに練習用で作ったのがヒットするかもしれないですし、何が起こるかわからないものです。
開発をする際はポリシーを持ってブレないことが大切だと思っています。
『まりも』は世界観を壊さないように作っています。要望を受けて開発できるものもあるけれど、ポリシーがないと違うアプリになってしまうので。
要望が来たり、他アプリでは実装されている機能だけど、「自分の世界観とは違うなぁ」という時は、「その機能は他のアプリでもやっているので他のアプリにお任せする」という気持ちを持つことも手かなと思います。
花島:ありがとうございます!『まりも』はストアレビューでも、
「辛かった 高校受験の時も陰ながら支えてもらっていました」
App Store 『まりも」のレビューより
「まりもがいなくなったら心の中にぽっかり大きな穴が空いた。今までありがとう」
「携帯買って始めの頃に入れたアプリで、まりもの成長と共に自分もiPhoneに慣れていった」
という暖かいコメントが多く、家族のように多くのユーザーの生活に寄り添っているアプリです。その愛される秘訣にもなっているアップデートや世界観を守った運営を詳しく教えていただきました。みなさまの参考になりますと嬉しいです。
今後の『まりも』のアップデートも楽しみにしています!