Googleが2019年8月27日からapp-ads.txtの運用開始を表明するなど、app-ads.txtへの温度感が高まってきています。こういった流れはなぜ起こっているのか?私たちはどういった対応をしていくべきなのか?fluctのお取引先であるPubMaticさんにインタビューしました!
※文中の内容については、すべてインタビューを行った2019年8月当時のものです。
お話を伺ったのは・・・
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パブマティック株式会社について
– 御社について教えて下さい
PubMaticはいわゆるSSPです。基本的にサプライサイド(※1)のプラットフォームとしてパブリッシャーのみなさまの広告の売り上げ最大化に貢献できるようソリューション開発をしています。ミッションとして、一次コンテンツ(※2)を制作されているパブリッシャー様のマネタイズを最大に活かすことを掲げています。
2006年に立ち上げ、今年で創業13年になります。RTBが世に出る以前のアドネットワークを束ねる頃から始まりRTB、アドサーバー、PMP(※3)、HeaderBiddingのWrapper(※4)などを提供しています。現在はアプリ、ビデオ、データ活用にフォーカスしています。本社はアメリカで、ヨーロッパ、アジア地域を含む全世界に13か所のオフィスと6か所のデータセンターを構えています。
- ※1:本記事では、オンライン広告の媒体社(メディアやアプリ)の広告枠の販売や広告収益の最大化などを支援する事業社のこと
- ※2:1次情報ソースとなるコンテンツのこと
- ※3:プライベートマーケットプレイスの略。参加できる広告主とメディアを限定した広告取引
- ※4:HeaderBiddingを複数束ねて配信する仕組みのこと
ads.txtとは?
– ads.txtとは、どのようなものか教えてください!
メディアやアプリディベロッパーなどの媒体社(以下パブリッシャー)がどの事業社に広告枠在庫(以下インベントリ)(※5)を販売することを許可しているか、それを宣言するものです。つまり、パブリッシャーにとって「自分たちの在庫を売ることができる事業社はここですよ」ということを、ads.txtで広告バイヤーに知らせています。
また、配信形態が直接契約なのか再販であるのかをパブリッシャーが宣言するためのものでもあります。
- ※5:広告インベントリ(広告在庫)とは、媒体社の広告枠におけるインプレッションのこと
ads.txtを見たバイヤーの買付判断について
– ads.txtを見たバイヤー(※6)はどのように買付を判断するのでしょうか?
買付のシステム、DSPによってそれぞれポリシーが異なります。そもそもads.txtが設置されていないサイトを買い付けしないバイヤーもいれば、ads.txt内で認証されていない事業者からは買い付けを行わないバイヤーもいます。そのポリシーはDSPによってまちまちです。なので、ads.txtの設置がないからといって、一概に全く広告の買い付けが行われないとも限りません。
また、SSPによってもads.txtのポリシーがあります。
PubMaticでは、ads.txtが設置されていないサイトの場合(宣言をしていない状態)は引き続きDSPに入札リクエストを送付しています。宣言をしていてPubMaticが認証されていない場合はDSPに入札リクエストを送付しないというポリシーです。
- ※6:本記事のバイヤーとは、広告掲載される枠を買い付け、実際に広告を掲載することができるようにする事業社のこと
ads.txt普及の背景
– 正しく販売されていると宣言する必要があるのは、ads.txtの成り立ちと関係があるのですか?
はい。海外ではドメインのなりすましが問題になっています。なりすましとは例えば、悪意のある事業者がbotからのアクセスをあたかもプレミアムなインベントリだと偽って販売することなどです。
そのドメイン本来の所有者からすると、自社のブランドを傷つけたり、インベントリの価値を毀損してしまうことにつながります。グローバルではここがかなり問題視されていて、ads.txtはこういったなりすましを防ぐために登場した背景があります。
日本ではこういったなりすまし被害はあまり存在しないと思われるかもしれませんが、実は人知れずインベントリが転売されている可能性もあります。転売だけでなく、バナー枠しか持っていないパブリッシャーなのにビデオという形で売られていたりするケースもあります。パブリッシャーが知らないうちにインベントリが偽装されていたとしても、バイヤーからはわかりません。
ドメインのなりすましによって、思いもしない買い付けを行ってしまっている可能性があるのです。
パブリッシャーサイドから見てもads.txtは重要
– パブリッシャーにとっては煩わしい部分もあるかと思います
煩わしさは確かにあると思いますが、自社のインベントリを守るという意味で対応する必要があります。ads.txtを設置しないということは、インベントリを守らないという宣言とも取れるのです。
もちろん、例えばブログサービスを運営しているブログ事業者のads.txtと、そのブログサービスを利用しているユーザー個々のブログのads.txtをブログサービスのドメイン配下に設置できないなどのやむを得ないケースはあり得ます。こういった事情に対応できていないads.txtに問題がないわけではありませんが、このようなケース以外であれば自分のドメインに宣言を行う必要はあるでしょう。
日本だと、どちらかというと我々SSPなどのアドテクベンダー(以下、ベンダー)側が「入れましょう」と伝え、媒体社側がそれを受けて設置する、という構図になりがちですよね。海外だと全く逆で、媒体社自身が入れなくてはいけないという意識がある。販売チャネルは自分たちが管理すべきである、グローバルと日本でそういった意識の差はあると思います。
多くのads.txtの記述があるということはつまり、それだけ自分たちのインベントリを取り扱う事業者が多い、また再販されているという意味でもあります。それを理解しているのであれば問題はないし、それをコントロールするという意味では必要な作業負荷であるでしょう。
それは本来ベンダーから押し付けられるものではなく、媒体社自身が自身の価値を守るということなのです。
国内外のads.txt普及状況の差
– webでads.txtが普及してからおよそ2年経ちます。現状の国内の普及状況についてどう見ていますか?
ads.txtのWebでの設置率ですが、ある統計によると日本はまだ30%台にとどまっています。我々がお取引しているパブリッシャーは80%前後ですが、日本国内すべてのwebサービスを対象とすると、そこまで普及しているわけではないのが現状です。一方、eMaketerのレポート*においては、2018年第3四半期にグローバルでプログラマティック広告を活用しているウェブサイトのads.txtの普及率は、トップ1000サイトにおいて76.7%となっています。
グローバルではその危機意識があるからこそads.txtが普及しているし、自分たちのインベントリをしっかり守ろうという動きがあるのです。
日本の場合だと、マネタイズに影響が出るから入れなければならないという発想になりがちですが、ads.txtはそういう意図のものではなく、自分たちのインベントリの価値を守るということが目的なのです。
app-ads.txtについて – アプリでも求められる透明性
– app-ads.txtの動きが出てきています。アプリにおいてもwebと同様の普及をするのでしょうか?
やはりapp-ads.txtでもwebと同じ事象が起こるのは間違いないでしょう。なぜなら、広告予算がwebからアプリにシフトしてくるからです。実際に、人々の可処分時間がwebベースからアプリにシフトしています。アプリの閲覧時間は増え続けおり、そうなると、デマンド(※7)側も広告予算をシフトしていく流れは間違いなくあります。それに伴ってパブリッシャー側はアプリでのマネタイズ機会も増えていくでしょう。するとやはりapp-ads.txtでもwebと同じ事象が起こるのは理解できると思います。
アプリ環境とweb環境で大きく違う点はインベントリのクオリティを監視することが難しいことです。アプリ環境はそういった対策がとりづらく、悪意を持って働こうとする事業者が依然として存在する環境にあります。
そういった意味でもapp-ads.txtを設置するのは非常に有効であると考えられます。
- ※7:本記事においては、オンライン広告で、広告主(購入者)側の広告効果の最大化を支援する事業社の事
– ディベロッパーサイトに設置する必要がありますが、何か普及の妨げになることはあるのでしょうか?
アプリストアによって仕様が異なるのでWebのads.txtと比べ少し複雑かもしれません。
アプリにおける普及率でいうと、当社経由でのグローバルのインベントリでは、現在50%程度です。日本ではまだまだこれからですね。
– app-ads.txtはGoogleが対応したことで加速することになるのでしょうか?
Googleが、というより業界全体の流れによって加速するのではないでしょうか。
ブランド系の広告主が、アプリに対しても予算を投下するようになってきています。ひと昔前だと広告予算はアプリインストール案件などに偏っていましたが、グローバルでは認知拡大目的のブランド系広告主がアプリのインベントリを買い付けるケースも増えてきています。
そうなってくると、アプリにおいても広告の透明性が求められていきます。
PubMatic社のads.txt対応
– このような普及の中、御社で現在行っている、または今後行う予定のads.txtの対応について教えて下さい
現在の対応ですと、ads.txtが入っていて認証事業者としてPubMaticを記載していない場合はDSPに入札リクエストを送付しないというポリシーです。Webに関してはこれを去年から採用しています。いまのところ、ads.txtがそもそも用意されていないインベントリに関しては入札リクエストの送付を行なっています。アプリに関しても同じ方針で、2019年9月1日から対応を行います。
また、Sellers.json(※8)とSupply Chain Object (※9)にも対応を行っていきます。透明性を求める流れにおいて、IAB自体が推進を決めたことに我々もコミットしていく形になります。
- ※8:Sellers.JSONとはベンダー側のads.txtと呼ばれるもので、各SSPやエクスチェンジが扱う在庫をどのように取り扱っているかをインベントリー名、IDと共に宣言するもの
- ※9:Supply Chain Object (SCO)は、入札毎のビッドリクエストにバイヤーに対してどの販売者、再販事業者を通じて販売されているかを伝えるもの
デマンドサイドがどのインベントリをどう確実に効率よく買うかを重視しており、Sellers.jsonとSupply Chain Object はそれをサポートするものになります。
Sellers.jsonとSupply Chain Object は、バイヤーとパブリッシャーの間に事業社が何社いて、どの事業者が参加しているかがわかるような仕組みになります。これはいままでになかったことです。このような可視化の波は来年にかけてやってくるでしょう。これらの流れにおいて、我々もポリシーを決めてパブリッシャーのみなさまに伝え始めているところです。
ads.txtはパブリッシャーさんに宣誓していただく形ですが、これは第一フェーズです。第二フェーズでSSP、エクスチェンジがSellers.jsonに対応して、Supply Chain Object を送る。そうするとどこが認証された事業者で、どこがダイレクトでどこがリセラーかだけでなくて、このインプレッションがどういう経路でバイヤーに到達したかがすべて可視化されます。これによってより透明性が提供されることとなります。そこまでされてようやくマーケットがクリアな状態になりますね。
これはバイヤーが求めた流れです。ここまで綺麗にしてはじめて、プログラマティック広告にもっと予算が増えると考えています。
– とてもいい流れだと思います
中長期的にはかなりいい流れだと思いますが、短期的にはSSPやエクスチェンジにとって売上が下がるリスクもあります。再販事業者が多い地域ではすでに影響が出始めています。
当社のポリシーとしてはお付き合いしている事業者の先が媒体社様である場合は買い付けを行いますが、当社とパブリッシャーの間の事業者が2社以上の場合は買い付けを行わないと決めました。つまり、在庫の再販は1回しか認めない形になります。
2019年9月からアプリで始め、来年1月からwebでも開始します。また、PubMaticでは来年第一四半期までに取引先事業者にSellers.jsonとSupply Chain Object の両方のサポートを必須要件としてお願いしています。
– ここ最近では、著作権違反の広告クリエイティブやアドフラウドに対して厳しい目も出てきています。広告業界全体の健全化として同様の流れとして言えるのでしょうか?
PubMaticではアドクオリティ、インベントリクオリティそれぞれチームが存在しています。クオリティという部分にはかなり力を入れていますね。
パブリッシャーの売上は下がるのか、上がるのか
SSPやアドエクスチェンジが痛みを伴う部分は大いにありますが、中長期的にみるとプログラマティック業界にとってはポジティブに影響するのではないでしょうか。
パブリッシャーサイドとバイヤーサイドの距離はかなり近くなっています。ヘッダービディングやラッパーソリューションの普及によりいろんなチャネルからインベントリに接続できるようになり、それに伴いSSP自体もコモディティ化していて、パブリッシャーに対して差別化が難しい状況です。当社としては、デマンドサイドに向けたインベントリーの健全化に差別化を図っていきたいと考えています。
ads.txtの未来
– こういった流れの中で、PMP取引の拡大を期待したいです
日本だとグローバルとPMPの事情が違うため、インベントリが綺麗になったからといってPMP取引が拡大していくかというと疑問です。延長線上にあるかはわからないですが、前提としてはまずインベントリと買付の商流の透明性を高めることは大いに意義はあるでしょう。
ここに真摯に取り組まないとプログラマティック広告という領域が縮小するという危機感を持っています。
プログラマティック広告がブランドから信頼されなくなってしまい、彼らが予算を投下するに値しないチャネルだと見られてしまうと、プログラマティック広告にお金が流れてこなくなる。そうなるとパブリッシャーとしても収益を上げづらくなっていきます。
予算を広げるためには透明性・健全性を確かなものにしていかないといけません。中長期的に見るとプログラマティック広告に関わるすべてのプレイヤーが関わっていかなくてはならない問題だと思っています。
– IABはSellers.jsonとSupply Chain Object を発表しています。今後ads.txtやそれにまつわる動きはどうなっていくでしょうか?
PubMaticはSellers.jsonとSupply Chain Object の2つを支持すると宣言していますが、今のところSSP、DSPごとにその対応はまちまちです。スタンスを明言しないSSP、DSPも多いですが、一方でSellers.jsonがサポートされていない事業者からは一切買い付けを行わないとするDSPもいます。
グローバルのバイヤーはこういった流れに追従していくのではないかと見ています。このような声が1社でも上がれば、サプライサイドとして真摯に取り組まないわけにはいかない為、PubMaticはいち早く表明を行っています。
– 対応するかどうかは各社のスタンスに委ねられるのでしょうか?
グローバルでは特にバイヤーサイドが求めているので、対応は収束していくと思いますね。バイヤーの要求に応じられないSSPは買われなくなっていく。当社はそう考えているので、そうなると対応せざるを得なくなっていくでしょう。
遅かれ早かれ多くのDSPが対応していくだろうと思われます。
特に大手のDSPがSupply Chain Object にどういうスタンスを取るかはマーケットにとっては大きいと思われますね。
ads.txtに関連するすべての人たちへ
– ありがとうございました!最後にads.txtに関連するすべての人たちへメッセージをお願いします!
いま、他の業界で当たり前に行われていることがプログラマティックの業界では当たり前に行われていない部分があります。例えば、トヨタの自動車をトヨタに認められてないディーラーがトヨタの車だと偽って売るのは許されないでしょう。トヨタの車はトヨタが認めたディーラーしか売れないし、買う側もそれが当たり前だから安心して買えるのです。
ads.txtが出てくる以前のプログラマティック業界では、このインベントリは本当にこのパブリッシャーが売っているものなのだろうか? と疑心暗鬼で買うしかありませんでした。それ以前にそれを知る術がありませんでした。
ads.txtやSellers.json、Supply Chain Object はこういった状況を健全化しようという流れなのです。現状は、少しずつあるべき姿に近づいてきていると思います。
すぐに予算が増えたりパブリッシャーの売上が上がるという話では確かにありませんが、対応しなければ業界全体が縮小していく恐れがあります。全体の課題として取り組んでいく必要があるでしょう。
プログラマティック広告成長のために、ぜひads.txtを設置しましょう!