アプリのマーケティング支援で急成長中のRepro社が主催するイベント「アプリの虎」に参加してきました。「アプリの虎」は、アプリに積極的に取り組んでいる企業の担当者に、アプリを提供する狙いや自社事業のなかでのアプリの位置付け、さらには企画・開発時の苦労話を赤裸々に語ってもらうイベントです。今回の登壇者は「ユナイテッドアローズ」「JALカード」「ASKUL」という錚々たる方々。各社のアプリ制作における気づきをご紹介したいと思います。
3社から学ぶアプリ開発と運用の難しさ
ここからは有名企業のプレゼンターによるアプリ制作の背景や失敗談、学びなどをご紹介していきます。
ユナイテッドアローズのアプリ開発例
事業支援本部
デジタルマーケティング部
デジタルコミュニケーションチーム リーダー
安藤 彩子氏
失敗談を語る前に、ユナイテッドアローズの概要を説明します。ユナイテッドアローズは、18ものストアブランドを持ち、海外直営店の3店舗を除く、国内で243のリアル店舗を展開する国内セレクトショップ企業です。ユナイテッドアローズではこの直営店での販売の他に、オンラインストアでの商品販売も行なっています。
ユナイテッドアローズでは過去に、実店舗への来店のきっかけ作りを目的にした「ユナイテッドアローズ オンラインストア」アプリと実店舗でのポイントカード機能をアプリ化した「UNITED ARROWS LTD. HOUSE CARD」の2アプリを運営していました。しかし、より購買前後の情報などを活用してお客様のお買い物体験価値を上げるために、昨年にこの2つのアプリを1つに統合するプロジェクトが立ち上がりました。それが今の「UNITED ARROWS LTD. 公式アプリ」です。
アプリを開発する上で難しかったのは、社内の様々なニーズの違いによって目的がブレてしまったことです。なぜブレたのかというと、ロードマップとして最終形の共有や合意が取れていなかったことや、誰がやるのかが不明確で個々の役割が明確になっていなかったからです。
アプリを作る上で、この部分を予め決めてから動くことは当然なのですが、開発を進める中で様々な意見やアドバイスが出てくることでブレてしまうこともあります。これが一番の気づきです。
現在はアプリユーザーがどのように利用しているのか、どのようなニーズがあるのかを把握すためにリテンション分析を積極的に行なっていて、ページ遷移を細かにみたり、Reproを使ったユーザーの目線・導線分析をしています。今後はアプリだけでなく他のデータも掛け合わせた統合型マーケティングを実現したいと思います。
JALカードのアプリ開発例
営業・マーケティング本部 営業部
業務・企画グループ マネージャー(DBM統括)
鳥海 淳一氏
JALカードは「人生に、旅という喜びを。」をコンセプトに会員数327万人を抱えるクレジットカード会社です。「JAL カードアプリ」はJALカード会員向けに提供しており、My JAL CARDへアクセス、特約店の検索・クーポン発券、マイルが当たるキャンペーンに参加できる、といった機能を持っています。2015年1月にリリースしてから35.8万ダウンロードされ、8割以上のユーザーが既存会員なので、予め定めていたターゲットと実際にダウンロードしてくれたユーザーが一致しています。
このアプリ開発にも様々な反省がありました。アプリを作る前の段階ではNFCNear Field Communicationの略で、おサイフケータイなどに使われている近距離通信のこと決済を中心としたアプリを構想しており、その他にも便利にするための様々な機能を作る予定でした。しかし、あまりにも機能を盛り込みすぎてしまい、アプリ本来の目的が見えづらくなってしまったのです。
そこで、まずは会員向けのJALカード特約店検索機能・クーポン発行、プッシュ通知の情報発信、ゲームでポイントがもらえるコンテンツの3つの機能に絞り開発しました。現在はこれらの機能改善や5大空港でジオフェンス位置情報を利用した仮想境界線を用意し、その中に入ったら何かアクションが行える仕組みのことを利用したご当地おすすめ情報発信などの新機能を追加し、日々ユーザーの拡大に努めています。
余談として、色々な苦労もありました。Googleのアプリ審査でJALの名を語る偽物だろうと疑われ、審査が通らなかったことや、プッシュ通知全配信でサーバーダウンさせてしまったこと、アプリの更新手続きを忘れてAPSよりアプリが削除されてしまったなどです。みなさまも気をつけましょう(笑)
今後は、会員ユーザー利用の拡大と継続利用を目的に、50万ダウンロードの達成と100万ダウンロードに向けたロードマップの作成、機能改善に向けた分析を行なっていく予定です。
ASKULのアプリ開発例
広告販促チーム
土屋 文明氏
グロースハック担当
田中 久美子氏
ASKULではロハコという「くらしをかるくする」日用品ショッピングサイトを運営しています。ロハコは、安く買うこと、ポイントでお得に買うというのが当たり前の時代に、ユーザーに商品を撮影してもらうなどの独自のお買い物を楽しむことを提案したサービスで、現在ではオシャレ、個性的だと評価されユーザーに支持されています。
ロハコではアプリ開発に着手する前に、サービスのコアユーザーである「アプリを利用している30代ママさん」にインタビューを行いました。そのインタビューでは2つの気づきを得られました。1つ目が「商品を探しやすくするだけでは不十分、探すことでは買い忘れは防げない」という気づきです。2つ目の気づきは、日用品が普段の食品やレジャー品の買い物ついでに買われているということです。この2つの気づきからわかったことは、「日用品のレコメンドだけでは不十分で、食品やレジャー用品等の、日用品を”ついで買い”する起点となる商品を推していくことが必要なのではないか」いうことです。そしてこれらの課題がアプリで解消できるのではないかと考えました。
それらの気づきから「時短」については、購買ルーティンをサポートする機能を付け、「買い忘れ」については、プッシュ通知などでの買い忘れの防止機能、画像大きくしたり日用品のレコメンド精度を上げることでまとめ買いを喚起するようにしました。
現在はユーザーとの距離を縮めるために、2時間限定のクーポンを発行したり、Happy On Timeという配達状況をお知らせするプッシュ通知なども始めました。Happy On Timeを始めてから配達不在率が大幅に下がったので配達業者さんにも喜ばれています。
アプリ導入期までに意識することとは
最後に、本イベントの主催であるRepro社のLTをご紹介します。
アプリのマーケティングツールの提供や、コンサルティングを行なっているReproでは、アプリデベロッパーの方からアプリ開発に関する悩みや運用に関する相談が多く寄せられるそうです。その中で相談者が陥っているありがちな失敗が3つ挙げられました。
アプリを作ったはいいが…
- アプリである必要性がない
- 公式Webサイトで同じことができたり、わざわざWebではなくアプリにすることで不便になる機能の追加
- 既存の事業と連携していない
- 本業とまったく目的の違うユーザーをターゲットにしていたり、ニーズのあまりないニッチすぎる特性を持っている
- 機能の詰め込み過ぎ
- 機能を詰め込みすぎてトップページを開いたときに何をすればいいかわからないUIや、チュートリアルがない不親切なUI
こんな失敗をしないために、アプリ開発に着手する前の企画時に考えておくべきことがあります。それは、アプリの目的を「プロモーション」に絞るのか、「セールス」に絞るのか、「CRM顧客関係管理とも言われ、顧客の情報を収集・セグメントし、それぞれに合ったアプローチをすることで、顧客との関係性を深めることを目的とした経営手法」に絞るのかということです。全部を目的にすると、多機能になりすぎてしまったり、アプリメリットが発揮されなかったりする、いわゆる失敗アプリになってしまいます。
では、ヒットアプリに多機能なものは無いのでしょうか。そんなことはありません。しかし、多機能化が成功しているアプリは、ユーザーが増えてからユーザーのニーズに合わせ徐々に機能を増やしているのです。良くある例として、社内でアプリ開発のディレクションを行なっていると、別の社員などから、こんな機能があったら良いんじゃないか、と親切心で助言をもらうこともあると思います。しかし、それは本当に最初に定めた目的と本当に合っているのでしょうか。一部のユーザーにとってはさらに便利になるけれど、なくてはならない機能ではないのではないでしょうか?“アプリはシンプルイズベスト”です。
いかがだったでしょうか。
企業が抱えるユーザーのニーズの違いによって搭載する機能、運用の方法は異なりますが、まずはシンプルに、アプリを開発する「目的を明確化」し、「本当にそれはアプリにすることでユーザーが便利になるのか」を確認しながら、進めていくことが重要だと感じたセミナーでした。