2017年4月4日、5日と2日間に渡ってサンフランシスコで開催されたPROGRAMMATIC I/O SAN FRANCISCOに株式会社fluct 執行役員の今井と、海外事業戦略室室長の鷹嘴が参加してきました。
今回はプログラマティック業界の豪華なスピーカーによるプレゼンやセッションが行われたDAY2のレポートをお届けします。
DAY1のレポートはこちらから
DAY2
Day2の内容は以下のタイトルでした。
- The Next Phase Of Great Digital Advertising
偉大なデジタル広告の次のフェーズ - The Programmatic Pulse On Wall Street
ウォールストリートのプログラマティック動向 - What’s Next From Google
Googleの次なる一手 - Moving Away From ‘Last Touch’
‘ラストタッチ’は忘れよう - How Time Flies
Time, Inc.の飛躍 - Why The Future Of Digital Advertising Is Brighter Than Ever Before
デジタル広告の未来が今まで以上に明るい理由 - Advancing Television
進化するテレビ - Transparency Today – What You Can Do
トランスペアレンシーの今 ー あなたにできること - Defragmenting Video
デジタルビデオにおけるフラグメントの解消 - Redefining Programmatic
プログラマティックの再定義 - What If Ad Tech And Mar Tech Don’t Converge?
アドテクとマーテック(Mar Tech)が交わらなかったら - Facebook’s Advertising Vision
Facebook社の広告ビジネスビジョン - The New, Cross-Channel Media Plan
最新のクロスチャネルメディアプラン - CRM Data Comes To Private Deals
プライベート取引におけるCRMデータ活用 - The Agency Platform
エージェンシープラットフォーム
Day2はDay1に増して濃い内容でした。Wall Streetからみた市場の分析や、マーケティングとアドテクをどのように扱うか、また今話題のYouTubeのブランドセーフティに関する問題についてGoogleのVPがコメントしたりと、旬なテーマも多く取り上げられました。
特に面白かった内容をいくつか取り上げてみたいと思います。
Transparency Today – What You Can Do
トランスペアレンシーの今 ー あなたにできること
Tatyana Zlotsky, VP, American Express
American Express社よる広告のトランスペアレンシーに関するプレゼンです。American Expressは非常に大きな予算をデジタル、そしてプログラマティック広告に割いている広告主です。プレゼンはインプレッションの品質、複雑さ、価格についてどんな問題点があり、どう対策を取ってるのかという話でした。
品質 (Quality)
低いビューアビリティ、フラウド、偽ニュースという問題に対し、それぞれ高い品質基準を設定しパブリッシャーのホワイトリストを作り、Facebookに現在よりも多く出稿することでそれらを回避していくという話でした。アメリカ大統領選の際に問題となった偽ニュース (Fake News)についても最近よく耳にする話題ですが、(トランプ氏が既存のメディアをFake Newsと呼ぶので変な盛り上がり方をしていますね)要するに拡散される過程で情報の「ウラ」を取らずに事実でない情報が広まるということに対する懸念です。こうした偽ニュースに対してFacebookでは事実確認専門の第三者機関による「ファクトチェック」機能を実装していますが、こういった対策によってAmerican Expressの信頼を勝ち得ているのかもしれません。
複雑さ (Complexity)
広告を運用していく際の中間流通業者の多さと、プラットフォーマーの差別化ができてないという指摘でした。対策としてはより少ないDSPで運用し、アウトソーシングは極力減らすこと。そして、データや結果をチーム内でシェアして効率性を高めるというものです。プラットフォーマーが究極的に差別化可能なのは、デマンド側の1st PartyDataと2nd PartyData・DMP含む3rd PartyData、サプライ側のユニークなImp数とフォーマットを含む媒体の質なので市場規模にもよりますが、大手のプレイヤー数社に収束していくのではないでしょうか。現にTurnやTeadsはテレコム系に買収されていたり、AOLもベライゾンに買収されました。データ勝負になってきているのは間違いありません。
価格 (Pricing)
American Expressのようなブランド広告主が支払ってる広告費のうち、多くがプラットフォーマーに支払われており、例えば10ドル払っても「媒体費」としてメディアが受け取るのは1ドル程度になってしまいます。
ターゲットオーディエンスにたどり着くためのプロセスが不透明だ、という主張です。これは複雑さにも通じるところですが、流通コストが高いということですね。
以上を考慮して、広告主は次の点に注意してプログラマティックに予算を割くべきだという結論でした。
- どのタイプのオークションに参加してるのか知る
- 広告出稿プロセスにおいて各社がどの程度を利益を乗せてるのか確認する
- CPMやCPAといったSSPレイヤーのレポートを手に入れる
- 出稿されているすべてのドメイン、アプリのリストを手に入れる
莫大な予算を投下してるので各プロセスにおける広告効果改善の余地はあると思います。特にDSPはCPMをコントロールしやすい (Offer Bidを決めるという意味で) 立場にあるので、彼らのマージンは少なくなってくると思われます。もともと広告の価格は誰が決めたのか不明な部分があり、例えば日本の代理店手数料20%というのも商慣習なだけで価格に意味があるわけではないと思います。広告効果だけを求めると全体的には価格は下がる傾向になっていくのが理想ですが、各プラットフォーマーも利益は出したい、他の選択肢はない、という状況が続くと思うので、「お金の流れが透明になったけどプラットフォーマーの利益率は高いまま」という状態に落ち着くのでしょうか。商取引は胴元が勝つ仕組みになっています。
Redefining Programmatic
プログラマティックの再定義
Shawn Riegsecker, CEO, Centro
プランニングツールやDSPなどの広告プラットフォームを開発してるCentro社のプレゼンです。広告主側のツールが機能的にどんどんリッチになっていくという内容でした。RTBやPMPといった広告取引のみのツールが予算管理、ワークフロー、見積もりや交渉履歴など、マーケティングプラットフォームとして機能していく未来を描いてるようです。人が介する事務作業がすべて自動化されていくような世界観でしょうか。
多種多様なデータを集めて、それを使えるようにする。そして適切なマーケティング・チャネルに配信する。結果を分析して精度を高めてPDCAを回していく。そしてそのプロセスを自動化する。オフラインの広告もどんどんサイネージ化していくと、本当にあらゆることが自動化できてしまいますね。購買データや顧客データなどのマーケティングの根幹の部分とより境目がなくなっていきます。マーケティングとアドテクの融合をテーマにしたプレゼンはこれ以外にも多かったです。
Centro社Shawn Riegsecker氏のProgrammatic i/o sf資料より
あらゆることを自動化する流れは確実に来ています。こういう未来が訪れると人間が出せる仕事の価値はなんなのか、というのを真剣に考える必要がありますね。昨今AIに仕事が奪われるのか、シンギュラリティに到達するのはいつになるのか、といった議論がされていますが、そういった前提条件が圧倒的に変化する時に、広告やマーケティング、業務プロセスがどう変わっていくのかを考える良い機会になりました。
Why The Future Of Digital Advertising Is Brighter Than Ever Before
デジタル広告の未来が今まで以上に明るい理由
Jeff Green, CEO, The Trade Desk
TheTradeDesk社が語るデジタル広告のいまと未来、についてのセッションです。
デジタル広告は一つの方法論でしかないが、チャンスはたくさんあり、マーケットがまだまだのびている。一方で不透明な取引を推進するなど価値が出せていないプレイヤーも存在していることは事実で、そういったプレイヤーはこのマーケットから退場すべきである。
全てはマーケットが複雑すぎることが問題で、簡単・シンプルであることがより良いことである。(Facebook/Google は広告効果が優れているというよりも、本質的には90秒で作業が完結出来るシンプルさをこの複雑な産業に持ち込んだことが優れている。)そもそも、広告業界の課題は価格決定の合理性が無いことである。
そして昨今ではよりブランドセーフティ、ビューアビリティ、フラウド対策、プライバシー問題への考慮が求められてきている。
プログラマティック広告市場について現状をどのように捉えるべきか、まさに今のマーケットの課題をひとつひとつ話していたので、聞いていて思考が整理出来ました。また、今後想定される広告の世界についても、より濃縮された広告配信になっていくだろう、とも話されていました。
- There will be fewer ads.(より広告は少なくなっていく)
- They will be more relevant.(より関連した広告が配信されるようになる)
- They will cost more, and they will be worth it.(より広告費は伸び、それに見合う価値が出てくる)
What If Ad Tech and Mar Tech Don’t Converge?
アドテクとマーテック(Mar Tech)が交わらなかったら
Martin Kihn, Analyst, Gartner
IT市場で調査会社として有名なGartner社のセッションではアドテクとマーテック(martech)の違いや共通点について語られていました。ポイントは、他セッションでも語られるオーディエンスの理解とコミュニケーションです。
- アドテクとマーテックが決して交わることはない理由
- buyers are different(買い手が違う)
- budgets are different(予算が違う)
- customer data are different(ユーザーデータが違う)
- talent is different(人材が違う)
- risk is different (cash flow / discount rate)(事業リスクが違う)
- competitors are different(競合が違う)
しかしながら、アドテクとマーテックは既に交わり始めています。ここでは、”Mar tech and ad tech are already convergence(DMP領域が鍵になる)”と話されました。
Gartner社Martin Kihn氏のProgrammatic i/o sf資料より
他セッションで、RTBを含めたアドテクノロジーをマーケティングの中でどう活用していくべきかという、これまでの概念を少し拡げる話が出ました。その一方で、このようにアドテクとマーテックにある大きな違いの中でどう考えていくべきかという話が出るということ自体が、改めてアドテクノロジーを今後どのように活用していくかという市場全体の問題意識に対して、様々な立場・視点で様々な意見があり、そこに正解はない、と実感しました。
アドテクノロジーとマーケティングテクノロジーの違いについて考えることは、我々の価値をどのように作っていくかに直結する非常に本質的な問いです。
参加してみて
2016年10月に引き続いての参加となりました。プログラマティックな技術自体はUSを発祥としており、USのトレンドを押さえておくのは重要な意味を持ちます。定点でカンファレンスの動向を追うことで課題やトレンドがどのように変化しているのかを理解することができるので、今後も積極的に参加して行きたいと思います。また、今回は2人での参加だったので、お互いにフィードバックをし合うことができ、前回よりも理解が促進されました。この気付きを実務にどのように落とし込むか議論を掘り下げることができるので、海外へのカンファレンスの参加は複数名で参加することをおすすめします。
日本のSSPとしてのfluctの知名度も肌で実感することができました。今後も可能な限り旬な海外カンファレンスに参加し、最新情報をもってプログラマティック広告の技術革新に貢献できるよう尽力していきたいと思います。
DAY1のレポートはこちらから